【インタビュー】医療・ヘルスケア事業者が補助金を活用すべき理由

医療・ヘルスケア領域では、近年どのような経営課題が大きくなっていると感じますか?

まず、医療・ヘルスケア領域、たとえばクリニック、動物病院、歯科医院、介護福祉事業者などでは、近年どのような経営課題が大きくなっていると感じますか?
当社に寄せられるご相談として多いのは、仕入れ価格の高騰や人件費の増加に伴うコスト負担の増加です。これにより、収益性の低下や資金繰りの悪化に悩まれる事業者様は少なくありません。

また、人手不足や人材確保に関するご相談も安定して多くいただいています。医療・ヘルスケア領域は、サービスの質を維持するために一定の専門人材が必要です。しかし、人材採用の難易度が上がり、人件費も上昇している中で、十分な人員体制を維持することが難しくなっていると感じます。

さらに、設備更新に関するご相談も増えています。医療機器や検査機器、業務効率化のための設備など、必要な投資はあるものの、投資額が大きく、補助金や資金調達を含めて慎重に検討したいというご相談です。

足元では、コスト増、人材不足、設備更新という3つの課題が特に大きいのですね。一方で、最近は後継者問題や開業に関する相談も増えているのでしょうか?
はい。近年では、後継者問題や事業売却、M&Aに関するご相談も増えてきている印象があります。単に日々の運営をどうするかだけでなく、将来的に事業をどのように継続・承継していくかというテーマも、重要な経営課題になってきています。

また、開業に関するご相談も一定数いただいています。病院、歯科医院、動物病院に共通する変化として、開業資金の増加と開業年齢の上昇があると感じています。

医療の世界では、技術の発展が日進月歩で進んでおり、新しい治療や検査手法が次々に生まれています。その分、新しい医療機器や設備が必要になり、開業時に求められる設備投資額も大きくなっています。

また、それらの医療機器や治療技術を十分に習得してから開業する必要があるため、結果として開業年齢も自然と上がっている印象です。その分、開業時から「失敗できない」と考える先生方が増えており、開業前の段階から事業計画や資金計画についてご相談いただくケースも増えてきたと感じています。

なるほど。足元ではコスト増、人材不足、設備更新といった課題があり、中長期では承継やM&A、さらに開業時の投資負担まで課題が広がっているわけですね。特に医療・ヘルスケア領域では、技術の進歩に対応するための投資が必要になる一方で、その投資判断を誤れないというプレッシャーも大きくなっていることが伝わります。

そうした経営課題がある中で、なぜ補助金が有効な選択肢になり得るのでしょうか?

仕入れ価格や人件費の上昇、人材不足、設備更新の負担など、医療・ヘルスケア領域ではさまざまな経営課題が大きくなっているというお話でした。そうした中で、なぜ補助金が有効な選択肢になり得るのでしょうか?
補助金は基本的に返済不要の資金ですので、経営上は非常にありがたい制度であることは間違いありません。会計上も収益として計上されるため、資金繰りや投資負担の軽減という意味では、大きなインパクトがあります。

ただ、私どもが補助金についてご説明する際には、単に「費用の一部が補助される制度です」とお伝えするのではなく、「事業のスピードを速めることができる点が、最大のメリットです」とお話ししています。

多くの場合、開業当初から100%理想的な設備や医療機器をそろえてスタートできるケースは、決して多くありません。実際には、まずは最低限の設備でスモールスタートし、事業の成長に合わせて段階的に設備投資を進めていく形が基本になると思います。

最初は最低限の設備で始め、売上が伸びてから次の投資を行うという流れですね。それ自体は堅実な考え方にも見えますが、どのような点に課題があるのでしょうか?
おっしゃる通りで、それ自体は堅実な考え方です。

ただ、近年は開業費用が増加しており、開業年齢も上がってきている印象があります。さらに、人材確保も難しくなっているため、多くの歯科医院や動物病院では、院長先生、つまり経営者自身が稼ぎ頭として高稼働を続けざるを得ない状況も少なくありません。

そのような環境の中で、

「最低限の機器でスタートする」

「少しずつ売上を伸ばす」

「十分な資金が貯まってから、差別化のために高度・専門的な機器を導入する」

という流れだけに頼っていると、どうしても時間がかかりすぎてしまうことがあります。

そして、次の大きな投資ができる頃には、経営者自身の年齢が上がり、新しい高度医療や専門領域にキャッチアップすることが体力的にも時間的にも難しくなっている。あるいは、その時点で多額の投資を行うこと自体が大きなリスクになっている。そうしたケースも出てくると感じています。

だからこそ、経営者が実働できる限られた期間の中で、スピード感を持って事業を発展させるための選択肢として、補助金は非常に有益だと考えています。

補助金というと「費用負担を減らす制度」と見られがちですが、山田さんのお話では、むしろ事業成長のタイミングを前倒しするための制度という位置づけなのですね。
はい。補助金は、単に「設備を安く買うための制度」ではありません。

本来であれば数年後にしか実現できなかった投資を前倒しし、事業の成長、サービス品質の向上、差別化、人材確保につなげていくための手段です。

特に医療・ヘルスケア領域では、良い設備や仕組みを整えることで、患者さんや利用者さんに提供できる価値が高まります。さらに、収益性が改善すれば、スタッフの待遇改善や採用力の向上にもつながります。

そういう意味で、補助金は単なる資金調達ではなく、事業を次のステージに進めるための経営手段だと捉えています。

ただし、すべての事業者様が補助金の対象になるわけではありません。たとえば、医療法人様の場合、中小企業向けの補助金では対象外となる制度が多くあります。制度ごとに対象者の要件は異なりますので、そこは必ず確認が必要です。

そのため、「補助金が使えるかどうか」だけでなく、「自社の法人形態や事業内容で対象になる制度はあるのか」「その投資が本当に経営改善につながるのか」という点から、早めに確認していただくことが大切だと思います。

補助金を活用できるかどうかは制度ごとに異なるため、まずは自社の状況と制度の相性を確認することが重要ということですね。補助金を「使えるなら何でも使う」のではなく、事業成長につながる投資かどうかまで含めて検討する必要があることがよく分かりました。

補助金は「簡単に取れるもの」なのでしょうか。それとも「難しいもの」なのでしょうか?

補助金については、経営者の方によって受け止め方がかなり違うように思います。「補助金は難しそう」と感じる方もいれば、「意外と簡単に取れるのでは」と考える方もいらっしゃると思います。山田さんは、この点をどのように説明されていますか?
おっしゃる通りで、補助金の難易度に関する認識は、経営者の方によってかなりまちまちだと感じています。

特に、コロナ禍の給付金・助成金・補助金をきっかけに制度を知った経営者の方も多く、その場合は「比較的簡単に受け取れるもの」という印象を持たれているケースもあります。

実際、コロナ禍では、ものづくり補助金のような比較的大型の補助金でも採択率が高い時期がありましたし、補助金の返還要件についても、現在と比べると緩やかな運用がされていた面があります。

なるほど。コロナ禍の印象が残っていると、「補助金は申請すれば比較的通るもの」と感じてしまう方もいるわけですね。
はい。ただ、コロナ禍はこれまでにない非常事態でした。倒産や失業の増加を防ぐために、国を挙げて特別な支援策が取られていた期間です。

そのため、当時の感覚をそのまま現在の補助金に当てはめるのは、あまり適切ではありません。現在は採択率も下がってきており、十分な準備と、クオリティの高い申請書が必要になっています。

また、近年は返還要件も厳格化してきています。多くの補助金では、従業員の賃上げなど、一定の目標が設定されるケースが増えています。これらの目標や要件を守れなかった場合、補助金の一部または全部を返還しなければならない可能性もあります。

採択されれば終わりではなく、その後に守るべき条件もあるということですね。
その通りです。ですので、安易に目標を設定したり、十分な数値計画を立てないまま申請してしまうと、かえって経営を圧迫するリスクもあります。

そういう意味では、「補助金は難しいものだ」と慎重に考えていただくこと自体は、むしろ正しい認識だと思います。

ただし、そのうえで強くお伝えしたいのは、補助金には、それでも挑戦する価値があるということです。

「難しいけれど、それでも活用する価値がある」ということですね。具体的には、どのような点が大きいのでしょうか?
補助金は、基本的に返済不要の資金です。会計上も収益として計上されるため、利益に対するインパクトが非常に大きいのです。

たとえば、営業利益率が5%の会社があるとします。その会社が1,000万円の補助金を得た場合、単純に考えると、2億円の売上を上げた場合と同じだけの利益インパクトを得ることになります。

もちろん、実際には税金や入金タイミング、補助対象経費の支払いなども考慮する必要がありますが、それでも通常の営業活動だけで同じ利益を生み出すことと比べると、補助金の効果は非常に大きいといえます。

営業利益率5%の会社にとって、1,000万円の補助金が2億円分の売上に相当するインパクトを持つというのは、非常に分かりやすいですね。そう考えると、手間をかけてでも検討する価値がある制度だと感じます。
はい。だからこそ、重要なのは「補助金を何でも狙うこと」ではなく、かかる手間や条件と、得られるメリットを天秤にかけて、適切な補助金を選ぶことです。

補助金は返済不要の資金を得られる一方で、賃上げ目標など一定の条件を守る必要があります。つまり、金額だけを見て判断するのではなく、自社の規模、経営状況、今後の投資計画、要件を守れるかどうかまで含めて判断する必要があります。

たとえば、売上100億円を超えるような企業が100万円の補助金を取得する場合、それでも申請の手間や要件遵守の負担は発生します。そうなると、手間や管理コストに対して、得られるメリットが小さい場合もあります。

一方で、創業直後の小規模事業者にとって、100万円の補助金は非常に大きな意味を持ちます。設備投資や広告宣伝、業務効率化のきっかけとして、事業の立ち上がりを大きく助ける可能性があります。

ですので、補助金は「取れるかどうか」だけではなく、自社にとって本当にリターンが大きい制度なのかを見極めることが大切です。

つまり、補助金は簡単に考えすぎてもいけない一方で、過度に難しく捉えて最初から諦める必要もない。大切なのは、自社の規模や投資内容、守るべき条件を踏まえて、メリットが大きい補助金を適切に選ぶことなのですね。
まさにその通りです。補助金は、正しく選び、正しく準備すれば、事業を前に進める非常に有効な手段になります。

一方で、制度の要件や採択後の義務を十分に理解せずに進めると、思わぬ負担になることもあります。だからこそ、最初の段階で「どの補助金を狙うべきか」「そもそも申請するメリットがあるのか」を整理することが重要だと考えています。

補助金を活用するうえで、特に注意すべき点や、失敗しやすいケースはありますか?

補助金には大きなメリットがある一方で、注意すべき点もあると思います。補助金を活用するうえで、特に気をつけるべきことや、失敗しやすいケースはありますか?
はい。注意すべき点はいくつもありますが、補助金が採択されたにもかかわらず、後々後悔するケースとして特に注意していただきたいのは、賃上げ要件や補助金の返還要件を十分に理解していないケースです。

補助金は返済不要の資金を得られる手段として非常に魅力的です。

ただし、無条件で支給されるものではありません。国の政策目的に基づいて、さまざまな条件が課されています。

「返済不要」という点だけに目が行きがちですが、補助金には守るべき条件があるということですね。
その通りです。特に近年は、国として労働者の賃上げに力を入れています。

そのため補助金も、単に企業の設備投資を支援するだけではなく、**「賃上げなど、国が実現したい政策に積極的に取り組む企業を支援する制度」**という側面が強くなっていると理解しておく必要があります。

たとえば、直近のものづくり補助金では、従業員一人当たりの給与支給総額を年平均成長率3.5%以上で成長させることが求められていました。

年平均3.5%と聞くと、一見すると大きな数字ではないようにも感じますが、実際にはどうなのでしょうか?
山田:ここは注意が必要です。

年平均3.5%というのは、毎年積み上げていく必要があります。つまり、1.035倍、さらに翌年も1.035倍という形で、複利的に増えていきます。

5年計画の場合、単純計算でも最終年度には給与水準を2割近く引き上げる必要があります。

そのため、「何となく達成できそう」という感覚で申請してしまうのは危険です。

つまり、申請時点で「採択されるかどうか」だけではなく、数年後まで本当に要件を達成できるかを確認しておく必要があるわけですね。
はい。まさにそこが重要です。

補助金を申請する際には、売上計画、利益計画、人員計画、給与計画を含めて、十分にシミュレーションを行う必要があります。

もし、事業計画上は売上や利益が伸びる前提になっているものの、実態としてその成長が見込めない場合、賃上げ要件を達成することが難しくなります。結果として、補助金の一部または全部を返還しなければならないリスクもあります。

補助金を受け取ったことで一時的には資金面のメリットがあっても、要件を守れなければ、後から経営を圧迫する可能性があるということですね。
その通りです。

だからこそ、補助金は「取れそうだから申請する」のではなく、自社の事業戦略や将来の収支計画と整合しているかを確認したうえで活用する必要があります。

ただし、賃上げ要件があるからといって、必ずしも企業にとってマイナスというわけではありません。

そこは少し意外です。賃上げ要件というと、企業にとって負担が増える印象もあります。
もちろん、収益性が伴わないまま賃上げだけを行うと、経営を圧迫する可能性があります。

一方で、人手不足に悩む企業にとっては、賃上げは人材確保や人材流出防止のために、もともと必要な取り組みでもあります。

特に医療・ヘルスケア領域では、専門性のある人材の確保が非常に重要です。歯科医院、動物病院、クリニック、介護福祉事業者のいずれにおいても、スタッフの定着やスキル向上はサービス品質に直結します。

そのため、もともと人材確保や待遇改善のために賃上げを予定していた企業であれば、補助金の要件と自社の方針が合致します。そうした場合は、デメリットが少ない形で補助金の活用につなげることができます。

なるほど。賃上げ要件を単なる負担として見るのではなく、自社の人材戦略と合っているかどうかで考えるべきなのですね。
はい。補助金は、要件だけを見ると負担に感じることもあります。

しかし、自社がもともと進めたい方向性と制度の要件が合っていれば、非常に有効な後押しになります。

重要なのは、補助金のために無理な計画を作ることではありません。

自社の事業戦略、投資計画、人材戦略に沿って、将来のシミュレーションに基づいた事業計画を立てることです。

そのうえで補助金を活用できれば、設備投資、人材確保、収益性改善を同時に進めることができ、補助金の効果を最大化できると考えています。

つまり、補助金活用で失敗しないためには、採択率や補助額だけで判断するのではなく、採択後の要件、賃上げ計画、収支計画まで含めて検討する必要があるということですね。
その通りです。

補助金は、正しく活用すれば事業を大きく前に進める力があります。

一方で、要件を十分に理解しないまま申請すると、後から大きな負担になることもあります。

だからこそ、申請前の段階で「本当に自社に合っている補助金なのか」「要件を無理なく達成できるのか」「投資によって収益性を高められるのか」を丁寧に確認することが重要だと考えています。

補助金は、事業を前に進めるための選択肢

ここまでお話を伺って、補助金は単に「費用負担を減らす制度」ではなく、事業の成長スピードを高めるための経営手段だということがよく分かりました。最後に、医療・ヘルスケア領域で補助金活用を検討している経営者の方へ、メッセージをお願いします。
補助金は、正しく活用すれば事業を大きく前に進める力があります。

特に医療・ヘルスケア領域では、設備投資、人材確保、サービス品質の向上など、避けて通れない投資が数多くあります。そうした投資を先送りにせず、適切なタイミングで実行するための選択肢として、補助金は非常に有効だと考えています。

一方で、補助金は無条件でもらえるものではありません。申請前の段階で、制度の要件、自社の収支計画、将来の賃上げや資金繰りまで含めて検討することが重要です。

補助金を「取ること」自体を目的にするのではなく、自社の事業をどのように成長させたいのか、そのためにどの投資が必要なのかを整理したうえで活用する。

その視点を持つことで、補助金は単なる資金調達ではなく、事業成長を後押しする大きな力になると思います。

本日はありがとうございました。補助金を制度として見るだけでなく、経営戦略や将来の事業づくりと一体で考えることの大切さがよく伝わりました。
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