新事業進出枠とは?新規性・新市場の2要件と採択ポイント

新事業進出枠とは?新規性・新市場の2要件と採択ポイント

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の3つの申請枠のうち、旧制度である中小企業新事業進出補助金の役割を引き継ぐのが新事業進出枠です。既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出に、最大9,000万円(賃上げ特例適用時)という3枠の中でも多額の支援を行います。

本記事は、この枠に絞って要件の解釈と実務を解説します。補助金全体の概要・3枠の比較・申請フロー・共通要件については「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金とは」をご覧ください。

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新事業進出枠とは

本枠が支援するのは、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出です。単に新しい商品を作るだけでも、新しい顧客に売るだけでも要件を満たさず、「新製品等 × 新市場 」の2つの条件を同時に満たす必要があります。

新事業進出枠では、補助下限額が750万円と設定されており、総投資額1,500万円以上の比較的大型の投資が想定されています。建物費が対象となることや、実施期間が14か月と長い点も、新分野への本格的な進出を支援する制度設計の表れです。補助率は中小企業者1/2(地域別最低賃金引上げ特例の適用時は2/3)です。

なお、本枠には他の枠にない対象外要件として「創業1年未満の事業者は対象外」が定められています。本枠は既存事業を持つ企業の新事業進出を支援する制度であるため、既存事業の実績がない創業直後の企業は申請できません。

事業再構築補助金から続く制度の系譜

新事業進出枠の前身は、コロナ禍で中小企業の事業転換を大規模に支援した「事業再構築補助金」です。同補助金の終了後、2025年にその後継として創設されたのが「中小企業新事業進出補助金」であり、2026年度にものづくり補助金と統合されて本枠となりました。

制度の中心となる「新製品等×新市場」の考え方や、従業員規模別の補助上限・補助率の水準は、旧新事業進出補助金からおおむね引き継がれています。

事業再構築補助金から続く制度の系譜

ただし、本補助金では「申請予定公募回の公募開始日以降に初めて取り組む事業」であることが新規性の起点です。すでに着手済みの事業では申請できない可能性があるため、この点は事前に確認しておきましょう。

新事業進出枠の2つの要件を解説

では、新事業進出枠の3つの要件について、1つずつ解説します。

要件1:製品等の新規性

新事業進出枠とは?新規性・新市場の2要件と採択ポイント

申請者に過去に製造・提供実績がない製品等であることが求められます。この場合、「日本初・世界初」ではなく、申請する中小企業等にとっての新規性であり、他社がすでに手がけている事業でも、自社にとって初めてなら該当し得ます。

一方で、次のような取り組みは対象外、または評価が低くなるとされています。

 

  • 既存製品の増産
  • 過去に製造していた製品の再製造
  • 単なる製造工程の機械化(製造方法の変更にとどまるもの)
  • 性能に有意な差がない製品

 

また、容易に製造可能なものや、既存製品の単純な改変・組み合わせにとどまる場合は評価が低くなります。

事業開始のタイミングも重要です。公募開始日時点で、すでに宣伝や販売、契約締結といった段階に至っている場合は「新規性がない」とみなされます。

ここで迷いやすいのが、市場調査や試作、社内での企画検討をどこまで進めてよいかの線引きです。一般的に、外部に向けて販売・受注・宣伝を始める前の準備段階であれば、新規性を損なわないと考えられます。ただし、判断が微妙なケースでは、いつ・どの活動を始めたかを客観的に示せる記録を残しておくと、審査時に説明がしやすくなります。着手日の証跡を意識しながら準備を進めておきましょう。

要件2:市場の新規性

既存事業の顧客層(法人/個人、業種、行動特性等)とは明確に異なる、新たな市場を対象とすることが必要です。

対象外となる代表例は4つあります。

 

  • 需要の代替
  • 単なるメニュー追加
  • 既存市場の一部に特化するだけの場合
  • 商圏の変更(A駅からB駅への移転など)

 

需要の代替とは、既存顧客が新製品に乗り換えるだけの場合です。原則的に、既存の製品・サービスの顧客と本補助金事業の商品・サービスの顧客が異なっていることが重要です。

業種別の活用ケーススタディ

ここでは、業種別の活用事例を紹介します。

飲食業のケース

店舗で提供している看板メニューを冷凍食品として商品化(製品の新規性を満たす)し、自社ECサイトで全国の個人顧客(市場(顧客)の新規性を満たす)に販売。冷凍食品は自社にとって初めての製造であり、市場も店舗商圏の来店客からEC経由の全国顧客へと明確に変わるため、両方の新規性を説明しやすい構成です。冷凍・包装設備の導入と、必要に応じた製造スペースの改修を投資として計上します。

建設業のケース

住宅施工で培ったノウハウを活かし、高齢者向けの介護リフォーム事業へ進出し、今まで手掛けていなかったバリアフリーに関する施工を開始。(商品の新規性を満たす)この場合、既存顧客である新築住宅の施主とは異なる顧客層(介護が必要な世帯、ケアマネジャー経由の紹介など)を対象とする点が新市場の根拠になります。住宅リフォームのメニューを増やすだけでは「単なるメニュー追加」と判断される恐れがあるため、対象顧客の違いを明確に示すことが必要です。

部品加工業のケース

B to Bの受託加工で培った技術を応用し、自社ブランドの完成品を家庭用製品として販売。(製品の新規性を満たす)顧客層が法人から個人へ変わるため市場の新規性が明確で、製品も完成品として自社初となります。生産設備に加え、ブランド構築のための広告宣伝・販売促進費も計上できます。

卸売業のケース

仕入・販売のみを行ってきた企業が、自社で製造機能を持ち、これまで手掛けていなかったオリジナル商品の開発・製造を開始。(製品の新規性を満たす)既存の卸先ではなく、直販やECなど新たな販売チャネルの顧客へ展開。(市場の新規性を満たす)製造設備の導入と工場スペースの整備が投資の中心となります。

一方、対象外と判断されやすいNG例もあります。既存の主力商品を色違い・サイズ違いで増やすだけの取り組みは「既存製品の単純な改変」とみなされます。また、既存顧客に新商品を案内して買い替えを促すだけの計画は「需要の代替」にあたり、市場の新規性が認められません。

既存工場の生産設備を最新機種へ更新するだけの投資も、新事業の実体を伴わないため新事業進出枠の対象外です。これらは要件1・要件2のいずれかを満たさない典型例であり、計画づくりの初期段階で自己点検しておくと、方向性の取り違えを防止できます。

いずれのケースでも審査上重要なのは、既存事業で培った技術・人材・顧客基盤・ブランドなどの経営資源を新事業にどう活かし、どのような相乗効果を生み出すかを説明することです。既存事業との関連が薄い唐突な異業種参入は、実現可能性の面で評価が厳しくなる傾向があります。

「社会における新市場性」か「高付加価値性」かを選んで証明する 

ここまでの製品等の新規性・市場の新規性は、いずれも「申請する自社にとって新しいか」という視点でした。新事業進出枠では、「社会から見て、その事業がどのような意味を持つのか」を示す必要があります。具体的には、次の2つのうちいずれか一方を選び、事業計画書の中で根拠を示します。

社会における「新市場性」

社会全体で見たときに、まだ十分に開拓・発展していない市場を、自社の事業によって切り拓く・広げていく場合は新市場を選びます。ここには、まだ世の中に普及していない新しい製品・サービスで需要を生み出すケースが該当します。

たとえば、これまで市場が存在しなかった分野に向けて新しいサービスを立ち上げる、普及率の低い技術を活用して新たな用途を開拓する、といった取り組みがあります。

同一ジャンル内での「高付加価値性」

対象とする市場が社会全体ではすでに成熟・浸透している場合は、高付加価値性を選びます。この場合は、その市場に出回っている一般的な製品・サービスと比べて、自社の提供するものがどのような点で優れ、高い付加価値を持つのかを示します。

たとえば、すでに一般化した製品カテゴリーの中で、性能・品質・機能などで明確に上回る製品を投入する、価格帯や提供価値の面で既存品と一線を画す商品を展開する、といった取り組みが該当します。

重要なのは、この2つは選択制であり、両方を満たす必要はない点です。自社の事業が「まだ世の中にない市場を切り拓くもの」なのか、「すでにある市場で頭一つ抜けた価値を出すもの」なのかを見極め、どちらか一方を選んで根拠とともに説明します。市場の成熟度をどう捉えるかで選ぶべき方向が変わるため、対象市場の現状を客観的なデータで示したうえで、選んだ理由まで事業計画書に記載できると説得力が高まります。

補助対象経費と建物費の実務

補助対象経費は次のとおりです。

 

  • 機械装置・システム構築費(建物費とのいずれか必須)
  • 建物費(機械装置・システム構築費とのいずれか必須)
  • 運搬費
  • 技術導入費
  • 知的財産権等関連経費
  • 外注費
  • 専門家経費
  • クラウドサービス利用費
  • 原材料費
  • 広告宣伝・販売促進費

 

新事業進出枠のメリットは、建物費が対象となる点です。新事業のための工場・店舗の建設、改修・増築などを計画に組み込めます。新分野進出では拠点整備が投資の中心になるケースが多く、この点が革新的新製品・サービス枠との実務上の違いです。

ただし、建物費には実務上の負担も伴います。設計・見積もり・施工の各段階で書類が多岐にわたり、実績報告で求められる証憑が設備のみの場合より格段に多くなります。建物費は単価の妥当性が厳しく確認されるため、複数社からの相見積もりは必須です。一者随意契約で進めると、実績報告時に金額の根拠を問われ、補助対象から減額されるリスクがあります。着工前・施工中・完成後の写真記録、契約書、内訳明細書などを整理しておきましょう。

また、交付決定前に契約・着工・支払いを行った経費は原則対象外です。建物費は金額が大きいだけに、いわゆる「フライング契約」は致命的な失敗につながります。交付決定を待ってから契約を締結しましょう。

取得した建物・設備には「専ら使用」の原則が適用され、事業計画書に記載された補助事業にのみ使用する義務があります。補助事業で取得した単価50万円以上の財産は「取得財産等管理台帳」で管理し、処分制限期間内に売却・廃棄・転用する場合は事務局の事前承認が必要です。

承認を得ずに処分すると補助金の返還を求められるため、設備の耐用年数と事業計画の期間を照らし合わせて計画を立てましょう。

補助上限額・補助率と試算例

新事業進出枠とは?新規性・新市場の2要件と採択ポイント

従業員40人の企業が6,000万円の投資(設備4,000万円+建物改修2,000万円)を行う場合、補助率1/2なら補助額は3,000万円(上限3,000万円の範囲内・従業員40人の通常枠上限は3,000万円)です。

補助下限額が750万円のため、補助率1/2なら総投資額1,500万円程度が申請の最低ラインの目安です。革新的新製品・サービス枠(下限100万円)と比べて投資規模のハードルが高い点は、枠選択の判断基準になります。

賃上げ特例は、1人当たり給与支給総額年平均+6.0%以上かつ事業場内最低賃金+50円以上の計画で適用され、従業員101人以上なら上限が3,000万円上乗せされます(最大9,000万円)。

未達時は上乗せ分の返還義務があります。あわせて、地域別最低賃金の引上げ特例を適用すると補助率が1/2から2/3に引き上げられます。同じ2,000万円の補助対象経費でも、補助率1/2なら補助額1,000万円、2/3なら約1,333万円となり、自己負担が300万円以上変わります。自社が特例の要件を満たせるかは、早い段階で確認しておくと良いでしょう。

採択率と過去の採択実績

新事業進出枠とは?新規性・新市場の2要件と採択ポイント

新事業進出・ものづくり商業サービス補助金第1回公募の採択発表は令和9年1月頃の予定で、新事業進出枠としての採択率は未公表です。前身である旧新事業進出補助金の実績を確認しておきましょう。

弊社調べによれば、採択率は35%前後で安定して推移してきました。さらに前身の事業再構築補助金では、公募回によっては採択率が20%台まで低下した時期もあったことを踏まえると、比較的挑戦しやすい水準といえます。

ただし応募件数は毎回2,000~3,000件にのぼります。相対評価の審査で上位3分の1に入るには、要件を満たすだけでなく、審査項目に沿って他社より一歩踏み込んだ計画を作り込む必要があります。ここでいう他社より一歩踏み込んだ計画とは、次のようなものが該当します。

 

  • 市場規模を業界統計や公的データの数値で裏付ける
  • 見込み顧客へのヒアリング結果やテスト販売の実績を根拠として添える
  • 競合を具体名で挙げて自社の優位性を価格・品質・納期などの観点で比較する
  • 売上目標を単価×数量×稼働率まで分解して算出する

 

旧制度では業種を問わず「事業計画の質」が採否を分ける傾向が指摘されており、新市場の分析と収益計画の説得力が問われます。

採択率を左右する要素として見落とされやすいのが、加点項目の取得状況です。旧制度では、賃上げをより高い水準で計画する事業者や、事業継続力強化計画の認定を受けた事業者、パートナーシップ構築宣言を公表した事業者などに加点が行われてきました。

採択率が3割台で推移する中では、こうした加点の有無が合否の分かれ目になることも少なくありません。要件を満たすだけの計画にとどめず、取得できる加点は早めに押さえておくことが、採択の可能性を高めます。

採択されやすい事業計画書の作り方

旧新事業進出補助金の審査では、事業の新規性・成長性、市場分析と競争優位性、実施体制や資金計画の妥当性、付加価値額・賃上げ目標の実現可能性といった観点が重視されてきました。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の審査は書面審査に加え、オンラインでの口頭審査も予定されているため、4つのポイントを押さえましょう。

3要件への適合を冒頭で明確に示すこと

既存事業の製品・顧客層と新事業の製品・顧客層を対比させ、何がどう新しいのかを一目で分かる形に整理します。あわせて売上高要件(総売上高の10%以上等)を満たす計画であることも数値で示してください。中小企業庁が公開している「新市場・高付加価値事業の考え方」の資料にも目を通し、公募要領の定義に沿った言葉で説明しましょう。

新市場の分析と売上根拠

進出先市場の規模・成長性、ターゲット顧客、競合状況、自社の参入優位性を、統計データや見込み顧客の声で裏付けます。既存事業とのシナジーを示せると、単なる異業種参入ではなく「自社だからこそ成功できる新事業」として説得力が高まります。

財務計画の整合性

付加価値額年平均+4.0%以上、1人あたり給与支給総額年平均+3.5%以上という共通要件を満たしつつ、新事業の投資回収計画と資金繰りが無理なく成立していることを示します。新事業進出枠は投資規模が大きいため、金融機関からの資金調達を予定する場合は確認書の提出が必要となり、早めの相談が不可欠です。

減点リスクの回避

既存事業との関連が説明できない唐突な参入、売上予測に市場データの裏付けがない計画、賃上げ目標と財務計画が乖離している計画は、評価が伸びにくいとされています。

また、事業計画書は必ず申請者自身で作成する必要があり、作成代行が発覚した場合は不採択・採択取消となります。高額な成功報酬を求める業者や経費水増しを提案する業者にも注意が必要です。

実施スケジュールの設計(14か月の逆算)

新事業進出枠とは?新規性・新市場の2要件と採択ポイント

新事業進出枠の補助事業実施期間は交付決定日から14か月(ただし採択発表日から16か月)以内です。革新的新製品・サービス枠(10か月)より長めですが、建物の建設・改修を伴う場合は設計・施工だけで半年以上かかる例も珍しくなく、余裕は決して多くありません。

応募段階から施工業者と概算見積もりとスケジュールを詰めておくと、交付決定後すぐ行動に移せます。建築確認申請が必要な工事の場合は、その審査期間も工程に織り込みましょう。

新事業進出枠の申請前チェックリスト ※申請準備の漏れを防ぐため、該当項目を確認しましょう

  • □ GビズIDプライムアカウントを取得済みか

    取得には通常1週間程度かかります。
  • □ 創業から1年以上が経過しているか

    新事業進出枠に固有の要件です。
  • □ 中小企業者等の基準を満たし、みなし大企業に該当しないか
  • □ 新たに製造・提供する製品等が、自社にとって初めてのものか
  • □ 対象市場の顧客層が、既存事業と明確に異なるか
  • □ 公募開始日以降に初めて取り組む事業か

    宣伝・販売・契約締結に至っていないか確認します。
  • □ 最終年度の新事業売上高が、総売上高の10%以上となる計画か

    または、総付加価値額の15%以上となる計画か確認します。
  • □ 機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを計上しているか
  • □ 建物工事を含む場合、14か月以内に完了する工程を組めるか
  • □ 3~5年の事業計画を作成したか

    付加価値額+4.0%、給与支給総額+3.5%、最低賃金+30円を満たす計画です。
  • □ 一般事業主行動計画を策定し、「両立支援のひろば」に公表したか
  • □ 子育て等環境整備の取組を実施する予定か
  • □ 金融機関から資金調達する場合、確認書の準備を依頼したか
  • □ 事業継続力強化計画の認定など、加点項目の取得手続きを始めたか

※対象要件、補助対象経費、加点項目、提出書類は公募回により変更される場合があります。申請前に必ず最新の公募要領を確認してください。

よくある質問

Q.既存事業を縮小・廃止して完全に事業転換する場合も対象ですか? 

A.既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への進出であれば、多角化・転換のいずれの形態も対象になり得ます。既存事業を続けながら新たな柱を加える「多角化」でも、既存事業を縮小・廃止して新事業へ移行する「転換」でも、要件を満たせば申請できます。

ただし完全に事業転換する場合は、転換後の新事業だけで付加価値額や賃上げの成長目標を達成する計画が必要になり、既存事業の収益で下支えできない分、計画の実現可能性がより厳しく見られます。個別の要件適合は、公募要領と中小企業庁の「新市場・高付加価値事業の考え方」の資料で確認してください。

Q.創業して間もない会社ですが申請できますか? 

A.本枠では創業1年未満の事業者は対象外です。既存事業の実績を土台に新事業の妥当性を審査することが目的とされています。

創業から1年以上経過していれば申請可能ですが、その場合も既存事業の決算実績が審査の判断基準です。なお、創業間もない事業者が革新的な製品・サービスの開発に取り組む場合は、創業1年未満でも申請できる革新的新製品・サービス枠が選択肢になります。自社の状況に合う枠を検討しましょう。

Q.すでに新事業の準備を始めていますが申請できますか?

A.公募開始日時点で宣伝・販売・契約締結に至っている場合は新規性がないとみなされます。一方、市場調査や試作、社内での企画検討といった準備段階にとどまっていれば、新規性を損なわないと考えられます。

判断が微妙なケースでは、いつ・どの活動を始めたかを示せる記録を残しておくと、審査時の説明がしやすくなります。準備段階の内容によって判断が分かれるため、着手済みの活動を洗い出したうえで公募要領で確認しておきましょう。

Q.交付決定前に建物工事の契約や着工をしてもよいですか?

A.原則として補助対象外になります。補助対象となるのは交付決定日以降に契約・発注した経費に限られ、交付決定前に契約・着工・支払いを行った建物工事は、たとえ事業計画に沿った内容でも補助を受けられません。

金額が大きい建物費でのフライング契約は損失も大きくなるため、必ず交付決定後に契約しましょう。工期が心配な場合は、応募段階で施工業者と概算スケジュールをすり合わせ、交付決定後すぐ着工できるよう準備を整えておくことも必要です。

Q.革新的新製品・サービス枠と両方に申請できますか? 

A.同一の公募回で申請できるのは原則1枠のみです。「新市場への進出」が中心なら新事業進出枠を選択しましょう。

判断に迷う場合は、その投資で最終的に何を実現したいのか、取り組みの主目的で切り分けると整理しやすくなります。申請枠により下限額や建物費の対象可否も異なるため、投資規模や拠点整備の有無も判断材料になります。

Q.どのような場合に補助金の返還が必要になりますか?

A.目標の未達や不適切な使用があった場合に、補助金の一部または全額の返還を求められます。新事業進出枠は賃上げや付加価値向上を前提に支援する制度のため、採択後の義務を果たせないと返還につながる点に注意が必要です。

主な返還のケースは次のとおりです。

  • 1人当たり給与支給総額の目標未達:1人当たり給与支給総額の年平均成長率が計画を下回った場合、「交付額×未達成率」に相当する額の返還を求められる
  • 事業場内最低賃金の目標未達:毎年計画した最低賃金の水準を維持できなかった場合、「補助金額÷事業計画期間(年数)」に相当する額の返還を求められる
  • 賃上げ特例の未達:賃上げ特例で補助上限額の上乗せを受けたにもかかわらず、1人当たり給与支給総額の年平均成長率+6.0%以上増加、または毎年事業場内最低賃金+50円(地域別最低賃金より50円以上高い水準)のいずれか一方でも要件を達成できなかった場合、上乗せ分の全額返還が生じる
  • 目的外使用(「専ら使用」違反):補助金で取得した建物・設備を事業計画書に記載した補助事業以外に流用した場合、残存簿価相当額等の納付を求められる
  • 虚偽申請・不正受給:交付決定の取消に加え、加算金を含めた全額返還の対象となり、事業者名等が公表されることもある

返還は数年後に生じることもあるため、賃上げ目標は「達成できる水準か」を申請段階で見極めることが重要です。付加価値額や給与支給総額の目標は、無理のない現実的な計画に落とし込んでおくことが、返還リスクを避ける対策になります。

まとめ

新事業進出枠は、旧新事業進出補助金を引き継ぐ、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する申請枠です。補助上限額は最大7,000万円(賃上げ特例で9,000万円)と多額で、建物費も対象となります。

採択されるためには、要件である「製品等の新規性」「市場の新規性」の2点をすべて満たすことが必要です。いずれも自社にとっての基準で判断されますが、既存事業との違いを明確に説明できるかが採否を分けます。

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